トリカブトとは、キンポウゲ科トリカブト属の多年草の総称である。 画像出典:https://www.ootk.net/cgi/shikihtml/shiki_2172.htm ハナトリカブト(A.chinense)の画像。「四季の山野草」より抜粋 画像出典:https://www.ootk.net/cgi/shikihtml/shiki_2973.htm ホソバトリカブト(A.senance)。「四季の山野草」より抜粋 画像出典:https://www.ootk.net/cgi/shikihtml/shiki_177.htm ヤマトリカブト(A.japonicum)。「四季の山野草」より抜粋 画像出典:https://iiif.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/repo/s/agriculture/document/7844f0c7-2434-7b74-15df-c74b0e3c8e38#?c=0&m=0&s=0&cv=22&xywh=1402%2C1959%2C3568%2C2128 ハナカズラ(A. ciliare DC.)の画像。東京大学所蔵「有用植物図説」より抜粋。 科名:キンポウゲ科キンポウゲ属 学名:Aconitum.sp 原産地:亜寒帯・温帯地域 生態:多年草 北半球のの温帯地域あるいは亜寒帯地域に広く分布する多年草で、世界中に300もの種類があり、わが国にはそのうち30種類ほどが知られているが、その中でも知名度が高いのは全国広い地域に自生するヤマトリカブト(A.japonicum)と、花の美しさから園芸の対象となるハナトリカブト(A.chinense)の2種である。また、普通は草丈1mから2mほどになる立性の草本だが、茎がつる状になるハナカズラ(A. ciliare DC.)という珍しい品種もある。 夏から秋に青紫色(まれに白色や薄いピンク色)の烏帽子型の花を咲かせ、それが雅楽の「鳥兜」に似ていることからこの名称があり、この花は古くから観賞用にもされた。 トリカブト類は薬草としても知られ、根茎を「附子(ブシ)*1」または「烏頭(ウズ)」と呼び、強心利尿薬に用いた。しかし、本種にはもう一つの恐るべき顔があった。そう。猛毒植物としての素顔である。主な毒成分はジテルペン系アルカロイドのアコニチンで、他にメサコニチン、アコニン、ヒバコニチン、低毒性成分のアチシンの他ソンゴリン等を全草、特に根に含む。 特に、アコニチンは強毒であるため、素人は無論のこと、薬草の扱いに長けた人ですら薬としてむやみに服用すれば嘔吐、呼吸困難、臓器不全、痙攣を経て心停止に陥り、命を落とす。明治期から大正期の本草学者・白井光太郎が事故死したのは、この附子(ブシ)が原因である。白井は、この猛毒植物から作り出した薬が、人体にどれほどの薬効を与えるのかという実験を、自らの体を使って行っていたのだ。そうして、薬効のある量より微妙に多い量を摂取しただけでこの世を去ってしまったのだった。本種の毒素は日本犯罪史上、五本の指に入る凶悪さを誇る「トリカブト保険金殺人事件」(1986年)にも用いられた。しかし、当時はアコニチンによる殺害とはすぐには断定されなかった。というのも、犯人が早期に足がつくことを危惧してフグに含まれる猛毒成分・テトロドトキシンと混ぜて死亡時間にずれ(・・)を生じさせ、死因の特定を困難にさせたためであった。経口だけでなく、傷口に入ったときもまた同様に危険である。世界の各地の部族は本種の毒を矢に塗り、戦闘に用いた。江戸時代初期、シャムの日本人町の支配者・山田長政が傷口に毒を塗られて殺される際に使われたのも、トリカブトの毒であるとされる。 また、本種の葉は切れ込みがあって、しばしば山菜のニリンソウ*2やヨモギ、薬草のゲンノショウコと誤って食してしまい、死亡した例が数件知られている。 近年はハナトリカブトが園芸植物として青紫色の花を観賞用にされることが多いが、手入れの際には必ずゴム手袋を着用し、またペットの手の届くところに鉢を置かないよう気を付けるべきである。