スイカは、果実を食用とする植物の一種。
画像出典:(左)スイカの花と蔓。自宅近くの園芸店にて筆者撮影。(右)自宅近くの畑にて撮影。
熱帯アフリカを原産地とする植物。ウリ科の植物の中でも葉の切れ込みが大きく、茎は蔓状で細かい毛に覆われ、巻きひげを出して他のものに絡みつく習性がある。 夏になると直径2cmほどの黄色い花を咲かせ、開花から1ヶ月強の完熟した果実を生食する。果皮の色は様々で、鮮やかな緑地に黒緑色の縦縞の入るもの、果皮全体が黒緑色になるもの、鮮やかな黄色地にオレンジ色の縦縞が入るもの、鮮やかな緑地に縦縞が薄く入るもの、濃い緑色地に薄い緑色の縞模様が入るものなどがある。果肉の色も赤色や黄色がおおく、珍しいものでは若干黄色みのある白色やオレンジ色のものがある。 和名は中国名の「西瓜(シーグァ)」が訛ったもので、漢名の西瓜は「西域の瓜」という意味である。最初の記録は、北宋時代の人物・胡嶠(こきょう)が捕虜として契丹(現在の中国北部、ロシア、北朝鮮にまたがる地域)に二年間滞在した際の見聞録『陥虜記』に「契丹がウイグルを破った際に種子を持ち帰った。牛糞を施肥して、棚を作って植える。中国の冬瓜のように大きく、味は甘い」とある。 我が国には室町時代に渡来したとされ*1、果皮が無地の黒緑色のものが多く栽培されていた(果皮が黒緑色の品種は「黒小玉スイカ」の系統のF1品種や「でんすけすいか」などが今でも栽培されている)。江戸時代頃にはスイカの消費が盛んになるが、現在のように果肉の甘みを楽しむわけではなく、喉の乾きを癒やすためのものであった。江戸時代前期の百科事典「和漢三才図会」によれば、甘みが薄いため砂糖をかけて食すもので、あまり人気がなかったという。水分を多く含んでいるから、当時の利用法としては、現在でいうところのスポーツドリンクのようなものであったろう。現在ではほとんど見かけなくなった(受粉の際や生育後期ごろの気候の条件によっては若干果実の形状がゆがむことがある)が、「和漢三才図会」や「成形図説」にはカボチャのようにやや扁平な形状のスイカの図がみられる。 明治時代になってから、欧米諸国の優良な品種が導入され、現在の甘みの強いスイカの原型がほぼ出来上がっていた。現在市場で見かける品種で鮮やかな緑色時に黒緑色の縦縞が入るものは大正時代〜戦前にかけて栽培が一気に広まったものである。品種は大きく分けて、果実の大きさにより大玉と中玉、小玉がある。大玉は果実の重さが5㎏から7㎏、小玉は1.5㎏~2㎏、中玉はその中間である。小玉スイカの類は戦前はあまり品種が多くなかったものの(「乙女西瓜」のように表皮が黄緑色で細い縦じまが薄く入る品種など、あるにはあった)、昭和40年代にF1品種「紅こだま」「黄こだま」が作出され、現在も家庭菜園向けないしは核家族層向けの品種が多く作出されている。 大玉よりやや大きめの品種には、明治期から富山県で栽培される『黒部スイカ』(入善ジャンボスイカ)や、表面が鮮やかな緑色で細い網目状の模様が入る『ゴジラのたまご』がよく知られている。黒部スイカはアメリカ産の品種『ラットルスネーク』が導入され、品種改良がなされたものであるという。いずれも果肉は赤色で、大きさの割に果肉は十分な甘みとシャリ感があるという。 果実は熟したものを生食する他、果汁をジュースやゼリーにしたり、果皮に近い白色の部分を和え物や漬物にして食べることもある。シロウリのような味がするという。1個の果実に栄養を集中させるために摘果した若い果実をウリのように漬物にすることもある。和歌山県で栽培される「源五兵衛」という品種は、若い果実を奈良漬けかあるいは味噌漬けに加工するために栽培される。 また、スイカに表皮がそっくりな「シトロンウリ」というものがある。シトロンウリの果肉は熟しても白いままで、種子は赤い。水分ばかりが多くて甘みがほとんどなく、酸味があるので、ジャムにするという。わが国にはスイカの一品種としてフランスから導入された*2ものの、現在に至るまでほとんど普及していない。 果肉だけでなく、種子も炒って食べることができ、中国では成熟しても果肉は白いままでおいしくはないが、種子はナッツとして申し分ないうまみを持っている種子専用の品種が作られているという。 市場でスイカを買う際、指で軽くはじいた際の音で判断するとよいといわれる。「ポンポン」と澄んだ音がすればよく熟しており、「ピンピン」という高い音であればまだ十分には追熟されておらず、「ボテボテ」という鈍い音であれば熟しすぎである。 種なしスイカという品種がある。これは、食べながら種子を吐き出すという煩わしさを解消するためのもので、種子ありスイカの花粉にイヌサフランから抽出したコルチヒンという成分を付着させ、種子を作る能力をなくしてしまうのである。 こうして受粉させたものは種なしスイカになるのだが、果実ができる時期が遅れるため果実の形状が歪んだり、果実が小さくなったり、味が薄くなったり、しいな(・・・)(熟していない種子)が残って食感が劣ったりするなどのデメリットが目立ったため、一時的に人気が弱まった。現在では試行錯誤の末、種無しでも食味が良かったり、果肉の形状が歪まない品種が作出され、市場にも出回り始めている。また、種が米粒ほどの大きさしかないという品種もある。大玉スイカの『新世界』や小玉スイカの『ピノ・ガール』は種子が小さいので、果肉ごと食べてしまっても気にならないほどである。 種なしスイカ。画像出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Watermelon_seedless.jpg 食用以外にも、スイカは利尿薬として用いられることがある。スイカを食べ終わった後、妙にトイレに行きたくなることがある。これは、スイカに含まれるシトルリンという成分が利尿作用を持っているからである。この性質を生かし、スイカの果肉を茶色くドロドロになるまで煮詰めた「スイカ糖」が利尿薬として用いられる。 また、観賞用にするスイカもある。まず一つに、コンテスト用スイカがある。こちらは、俵型の巨大な果実をつける品種で、正式な品種名は「カロライナ・クロス」という。本種は1トン近くになることもあるといわれるほど巨大な果実をつけ、しばしばわが国でも客を引き寄せるために百貨店などで展示されることがある。この品種は食用にできないことはないが、薄味で汁気も少ないので、食用にされることは少ない。 次に、「四角スイカ」と呼ばれるものがある。これは、食用種のスイカをまだ果実が小さなうちに木の枠をはめ、四角形や三角形に成長させたものである。こちらもまた客引き用に用いられるほか、贈答用にされることもある。こちらも食用にできないということはないが、あまり熟していないものを収穫するので、味は悪い。よって、こちらも専ら観賞用とする。 コンテスト用のジャンボスイカ、カロライナ・クロス。新宿高島屋にて筆者撮影。 四角スイカ。西武百貨店池袋店にて筆者撮影。