風雲児たち のバックアップ(No.20)

風雲児たちとは、漫画家・みなもと太郎氏による「歴史大河ギャグマンガ」である。本稿では、続編にあたる「幕末編」やその前哨戦的な作品「雲竜奔馬」についても解説する。

概要 Edit

 1979年、作者のみなもと氏は潮出版社の雑誌『少年ワールド』から新連載を依頼されていた。当時はまだ日本史を扱った群像劇的な漫画作品は存在せず*1、「日本史の群像劇があってもいいのではないか」「幕末の歴史を五稜郭の戦いまで描く」との初期構想で開始された。
 しかし、みなもと氏は「幕末の源流は関ケ原合戦にある」ということで物語を関ケ原合戦から開始させたのである。『少年ワールド』が廃刊になり、『コミックトム』へ移籍したのちもその方針は途切れず、延々と江戸時代初期(徳川家光の治世)まで話が続き、ダイジェストは江戸時代中期の明和年間、すなわち杉田玄白らが「解体新書」の執筆のため活動し始める時期でストップ。その後今度は延々と明和~寛政年間の話が続き、さすがに編集者から「幕末を描くといっていたのに、なんでまだ幕末編に入っていないんだ!」と怒られ、やむなく一部の時期をダイジェスト形式で流すしかなかった。が、それでも江戸時代後期の文政年間、つまり尚歯会(蘭学サロン)が開設された時期やのちの幕末の英傑たちが誕生する時期までしかショートカットしなかった。そうして、天保の改革の前後を描いた時点でとうとう編集者が「いったん打ち切って幕末編から書き直せ!」と怒ってしまった。1997年、編集者からの圧力を受け、みなもと氏は坂本龍馬が江戸を目指して旅に出るシーンで本連載をやむなく終了させた。翌年には坂本龍馬を主人公に据えた「雲竜奔馬」を描き始めるが、そこでみなもと氏が黒船来航後の幕府の対応を延々と掘り下げていたことや、掲載先の雑誌の廃刊など複数の要因が絡みあって、こちらも打ち切りとなってしまう*2
 そうした中でリイド社の『コミック乱』に拾われ、正当な続編にして本来の目的である『風雲児たち 幕末編』が2001年に開始。そうして、2019年まで順調に連載は続いていたが、2020年にみなもと氏の急病により連載は一時休載。そうして、翌年の8月にみなもと氏が亡くなったので連載が再開されることはなく、そのまま未完の大作となった。
 余談だが、みなもと氏は創価学会の信者で、かつて同じく学会信者であった静香夫人によれば、みなもと氏は本作を『牧口常三郎と戸田城聖*3の誕生』で完結させる予定であったらしい。みなもと氏は「牧口と戸田の誕生によって日本の本当の希望が生まれた」といつも静香夫人に語っていたという。静香夫人は「みなもと作品の底には日蓮仏法の十界互具と、池田先生から教わった人間観が流れています」と述懐している。

作風 Edit

 本作は群像劇というだけあって、登場人物数がとんでもなく多い。また、ある人物や歴史的事項の輝かしい側面だけでなく、負の側面も描いているのが特徴である。それ以外にも、特に幕末編では他の作品ではあまり取り上げられない「幕府サイドの細かな対応」を詳しめに描いていることもあって、幕府が不平等条約の締結に至った理由やその思惑がより詳しく描写されており、決して「不平等条約を結んだ幕府=無能」という幕府の思惑を不当に貶めるような描き方にはなっていない(「結果として、それが幕末の動乱に繋がることになった」とは評価しているが)。
 本作は「善悪二元論」に基づく「みなもと史観」を楽しむことができる作品で、基本的に「民に配慮した行動をした開明的な為政者」=「善」「頑迷で自身の出世をひたすら追い求める人物」=「悪」という図式である。例えば、これまで「ワイロを好む守銭奴」として描かれた田沼意次を「善玉」として描き、逆にそれまで「贅沢を引き締めて幕府の財政の安定化を図った」と功績をたたえられてきた松平定信を「頑迷固陋な悪玉」として描いている。
以下は、記事の冗漫化を避けるため、大まかな特徴を箇条書きで示すこととした。

  • 地方出身のキャラはだいたい方言でしゃべる(※江戸滞在期間が長かったり、何らかの原因で心境に変化が生じた場合は標準語化する)
  • よく他作品のオマージュやミームが導入される(例:由井正雪→横山光輝の「伊賀の影丸」のコピペ、天草四郎→「魔界転生」、ドラえもんの中の人ネタ、井伊直弼の首を取る→「巴マミる」、「カイジ
    」の「ざわ…ざわ…」、ポサドニック事件での「ガールズ&パンツァー」ネタ等。もっと連載が進んでいたら鬼滅の刃ネタやSPY×FAMILYネタもあったかも?)
  • 人が会話中のボケでほぼ毎回ずっこける
  • 連載当時の時事ネタを頻繁に盛り込んでいる(掲載当時からかなり経過している元ネタも多く、読者が理解出来ないこともある為、ワイド版では『ギャグ注』として解説が入る。幕末編ではそうしたギャグを入れる際に、コマの隅に若干の説明が入る代わりに『ギャグ注』のページが消滅)
  • 話を分かりやすくするために会話内の単語を現代風にしている(2000年の大河ドラマ「葵 徳川三代」でのナレーションを務めた水戸黄門のはっちゃけぶりを思い浮かべていただきたい)ほか、その時代には絶対存在していなかった物品(オーパーツ)(携帯電話や腕時計、テレビやパソコン)などを登場させる
  • 登場人物はみなデフォルメの強いギャグ顔であったが、連載が進むにつれ肖像画・写真が存在しないor作者が連載時点で写真や肖像画を目にしていない人物の顔はギャグ度合いが増す。ただし、史実通りにしてますますギャグ顔感が増した人物が存在する(中浜万次郎や周布政之助、毛利定広や佐久間象山など)。また、当初はギャグ顔であったが、読者から画像や写真の提供を受けたことで描き直した人物もいる。
  • 女性はアニメキャラを思わせるような美人からクッソブs…一般的な「美しい」という概念からは大きくかけ離れた顔つきと両極端に描写されている。また、キャラクターによっては全く年を取らない(例:最上徳内の妻のふで)。
  • 作者キャラが頻繁に登場し、編集者や作中の登場人物に突っ込まれている。また、ナレーションとしての出番も増加した。幕末編の桜田門外の変直前の巻(20巻)では男の娘化した。


    また、作者は「幕末の根源は関ケ原」という思想は一貫させており、特に薩長土の藩祖や家臣、土佐の郷士の祖先となる長曾我部家旧臣の直面した苦難を丁寧に描いている。これは、討幕派たちを単なる「テロリスト」として功績を貶めることなく、彼らなりの「正義」や討幕の「正当性」を描くことを意図したためである。そうした理由で、あまり幕末に関わってこないであろう小西行長や加藤清正、真田信繁や豊臣秀頼・淀殿母子など、関ケ原合戦や大坂の陣においてのキーパーソン的な人物の登場や死はナレーションやシルエット、メタファー的表現にとどめ、深入りしていないのである。
    ただし、細川忠興や南光坊天海など、幕末編で由緒を説明するために深入りしたキャラも一定数存在する。

登場人物 Edit

第一部(ワイド版1~3巻) Edit

  • 徳川家康
  • 石田三成
  • 大谷吉継
  • 毛利輝元
  • 毛利秀元
  • 吉川広家
  • 島津義弘
  • 島津忠恒*4
  • 木戸岡大屋の介*5
  • 宇喜多秀家
  • 小早川秀秋
  • 長宗我部盛親
  • 山内一豊
  • 山内千代
  • 加藤清正
  • 福島正則
  • 黒田長政
  • 細川忠興
  • 徳川秀忠
  • 神尾静
  • 静の父(神尾某)
  • 達子(いわゆる浅井三姉妹の「江」。浅井三姉妹のうち、いわゆる「初」は未登場)
  • 佐野道可
  • 岩見重太郎
  • 木村重成
  • 真田幸村
  • 豊臣秀頼
  • 淀殿(茶々)
  • 千姫
  • 徳川家光
  • 保科正之
  • 宮本武蔵
  • 天草四郎
  • 由井正雪
  • 丸橋忠弥
  • 幡随院長兵衛
  • 徳川光圀with助さん格さん
  • 吉良上野介
  • 大石内蔵助ら四十七士


    5代将軍・綱吉の治世から8代将軍・吉宗の治世(洋学禁止令の緩和以前の業績まで)についてはナレーションで流す形をとっている。

第二部(ワイド版4~12巻) Edit

  • 徳川吉宗
  • 青木昆陽
  • 野呂元丈
  • 杉田玄白
  • 前野良沢
  • 中川順庵
  • 平賀源内
  • 吉雄耕牛
  • 田沼意次
  • 田沼意知
  • 佐野政言
  • 桂川甫周
  • 佐竹曙山
  • 小田野直武(本作では「小田野武助」名義)
  • 鈴木春信
  • 司馬江漢(鈴木春重)
  • 大槻玄沢
  • 林子平
  • 高山彦九郎
  • 蒲生君平
  • 工藤平助
  • 青島俊蔵
  • 最上徳内
  • 最上ふで
  • 徳川家重
  • 徳川家治
  • 徳川家斉
  • 田安宗武
  • 松平定信
  • 大黒屋光太夫
  • 頼山陽
  • イコトイ
  • キリル・ラクスマン
  • アダム・ラクスマン
  • ベニョヴスキー
  • ツンベリー

第三部(ワイド版13~20巻) Edit

「幕末編」で活躍する人物の幼少期を描いているシーンが多いので、実質「幕末編」の序章ともいうべき章である。ワイド版では龍馬の江戸留学への出発で終わっているが、「幕末編」ではそれに5年さかのぼった楠本イネの石井宗謙への弟子入りからスタートしている。

  • レザーノフ
  • ゴローニン
  • シーボルト
  • 楠本滝
  • 高田屋嘉兵衛
  • 伊能忠敬
  • 間宮林蔵
  • 近藤重蔵
  • 遠山景晋
  • 遠山金四郎
  • 鼠小僧次郎吉
  • 矢部定謙
  • 小関三英
  • 渡辺崋山
  • 高野長英
  • 二宮敬作
  • 岡研介
  • 江川太郎左衛門(英竜)
  • 川路聖謨
  • 高島秋帆
  • 徳川家慶
  • 水野忠邦
  • 鳥居耀蔵
  • 大塩平八郎
  • 国定忠治
  • 平手造酒
  • 羽倉簡堂
  • 村田清風
  • 佐藤一斎
  • 勝小吉
  • 早乙女主水之介*6
  • 阿部正弘
  • 島津重豪
  • 調所広郷
  • 島津斉興
  • 島津斉彬
  • 男谷精一郎
  • 勝海舟(麟太郎)
  • 佐久間象山
  • 吉田松陰
  • 玉木文之進
  • 島田虎之助
  • 村田蔵六(大村益次郎)
  • 緒方洪庵
  • 楠本イネ
  • 坂本龍馬(本作では「竜馬」表記)
  • 坂本八平
  • 坂本乙女
  • 西郷隆盛
  • 大久保利通
  • 斎藤弥九郎
  • 岩倉具視
  • 岩倉具慶
  • 堀川紀子
  • 河合継之助
  • 中浜万次郎
  • 万次郎の船乗り仲間たち(筆之丞→伝蔵、重助、五右衛門、寅右衛門)
  • ホイットフィールド船長夫妻

幕末編 Edit

  • マシュー・ペリー
  • エフィム・プチャーチン
  • タウンゼント・ハリス
  • ヘンリー・ヒュースケン
  • ウンコフスキー
  • ジェームズ・スターリング
  • 尚泰王
  • 徳川斉昭
  • 徳川義篤
  • 徳川家定
  • 徳川家茂
  • 本寿院
  • 篤姫
  • 和宮親子内親王
  • 一橋(徳川)慶喜
  • 藤田東湖
  • 松平慶永
  • 橋本左内
  • 頼三樹三郎
  • 梅田雲浜
  • 日下部伊三治
  • 鵜飼吉左衛門
  • 鵜飼幸吉
  • 井伊直弼
  • 桜田十八烈士
    • 関鉄之助
    • 岡部三十郎
    • 斎藤監物
    • 鯉淵要人
    • 海後磋磯之介
    • 佐野竹之助
    • 黒沢忠三郎
    • 蓮田市五郎
    • 大関和七郎
    • 森山繁之介
    • 杉山弥一郎
    • 森五六郎
    • 稲田重蔵
    • 広岡子之次郎
    • 山口辰之介
    • 広木松之介
    • 益子金八
    • 有村次左衛門
  • 高橋多一郎
  • 福沢諭吉
  • 手塚良仙
  • 川本幸民
  • 江幡五郎
  • 宮部鼎蔵
  • 桂小五郎
  • 高杉晋作
  • 久坂玄瑞
  • 伊藤俊輔(博文)
  • 井上聞多(馨)
  • 周布政之助
  • 毛利敬親
  • 毛利定広
  • 小林虎三郎
  • 孝明天皇*7
  • 三条実美
  • 大原重徳
  • 姉小路公知
  • 正親町三条実愛
  • 有栖川宮熾仁親王
  • 黒田長博
  • 平野国臣
  • 小河一敏
  • 真木和泉
  • 松平容保
  • 西郷頼母
  • 武市半平太
  • 岡田以蔵
  • 岩崎弥太郎
  • 井上佐一郎
  • 河田小龍
  • 山内容堂
  • 後藤象二郎
  • 吉田東洋
  • 乾(板垣)退助
  • 安藤信正
  • 久世広周
  • 長野主膳
  • 村山たか
  • 宇津木六之丞
  • 小栗忠順
  • 松平康直
  • 森山栄之助*8
  • 竹内保徳
  • 立石斧次郎
  • 川崎道民
  • 松木弘安(寺島宗則)
  • 箕作秋坪
  • 高島祐啓
  • 福地源一郎
  • 西周助(西周(にしあまね))
  • 島津久光
  • 島津忠義
  • 五代才助(友厚)
  • 有村俊斎
  • 有村雄介
  • 田中新兵衛
  • 森山新蔵
  • 森山新五左衛門
  • 有馬新七
  • 大山格之助(綱良)
  • 西郷信吾(従道)
  • 大山弥助(巌)
  • 奈良原喜左衛門・喜八郎
  • 高崎五六
  • 伊牟田尚平
  • 小松帯刀
  • 中山尚之介
  • 本間精一郎
  • 山岡鉄太郎(鉄舟)
  • 清河八郎
  • 近藤勇
  • 土方歳三
  • 千葉重太郎
  • 千葉さな子
  • 寺田屋お登勢

幕末編に登場することが示唆されながらも未登場となった人物 Edit

  • 中村半次郎
  • 東郷平八郎
  • 中岡慎太郎
  • 江藤新平

外伝(本編に登場した人物も含む) Edit

冗談新選組 Edit

  • 近藤勇
  • 土方歳三
  • 芹沢鴨
  • 山崎烝
  • 新見錦
  • 平山五郎
  • 原田左之助
  • 清河八郎
  • 福原越後
  • 板垣退助

宝暦治水伝*9 Edit

  • 島津重年
  • 平田靱負

風雲戦国伝 Edit

  • 織田信長
  • 豊臣秀吉
  • 徳川家康
  • 石田三成
  • 大谷吉継
  • 賤ケ岳七本槍
  • 毛利元就
  • 山中鹿之助ら尼子十二烈士
  • 長曾我部元親
  • 井伊直政
  • 榊原康政

慶喜 Edit

  • 徳川慶喜
  • 徳川斉昭
  • 登美宮吉子(徳川慶喜生母)
  • 井伊直弼

チャカポンくん Edit

  • 井伊直弼
  • 内藤政義(直弼の弟、延岡藩主)

コメント Edit


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*1 当時は同時並行で横山光輝の「三国志」や手塚治虫の「ブッダ」が連載されていたが、いずれも世界史に該当する
*2 「雲竜奔馬」のコマの一部は「幕末編」に流用されている
*3 いずれも創価学会の開祖
*4 本作では「家久」名義。「家久」と名乗るのは関ケ原合戦後であるが、これは話を分かりやすくするための措置であろう
*5 オリジナルキャラ。ワイド版1巻の「ギャグ註」によれば、作者が作画グループにいた知人二人を合成して作ったという。かなりの巨漢で家康がビビるくらいの威圧感があったが、島津家のおとりつぶしを免れるために家康との交渉を終えた際には緊張が解けたのか、子供のように大泣きしていた。史実では家康との交渉にあたった人物は「新納旅庵」という人物で、東軍ながらも島津家に同情的だった福島正則の協力を得て家康との交渉に臨み、家康との講和成立後に主君・島津忠恒に大坂に赴いたが、本領安堵の知らせが届くや否や、緊張の糸がぷっつり切れたかのようにこの世を去っている
*6 本来は佐々木味津三の小説「旗本退屈男」に登場する架空の元禄期の人物なのだが、「1979年の連載開始前の広告に出ていたから」という理由で勝小吉の知人として一瞬登場。16年ぶりの伏線(?)回収となった。
*7 孝明天皇以前の天皇は、顔の部分が「十六弁菊」の紋章となっている
*8 ワイド版5巻に登場したオランダ通詞・吉雄耕牛に似せて描かれている
*9 ワイド版の3巻の終盤と4巻の序盤に収録

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