ヘチマは、ウリ科の蔓性一年草の有用植物である。 画像出典:東京都薬用植物園にて撮影。手前の果実は野菜として食せる。奥の黄色がかった果実はもう繊維が発達しているので、たわしにするのに向く。
ウリ科の一年草で、茎は蔓となり、全長5~8mに達し、巻きひげによってほかのものに絡みつく。普通は棚を作って蔓を這わせる。葉は手のひら状になり、5つに裂け、若干の光沢がある。 7月から9月にかけて直径8㎝の鮮やかな黄色い花を咲かせ、スイカやカボチャのように雄花と雌花に分かれている。 果実は緑色で、キュウリに似た細長い形状で、縦に浅く溝が走る。受粉から1週間前後のキュウリより少し大きいくらいの柔らかい果実は野菜として食用にすることができ、九州南部や南西諸島、沖縄島では夏野菜の一種としてみそ炒めなどにして食べる。若干の青臭さとナスに似た風味があるという。また、わが国で栽培されるたいていのヘチマは幼果が食用になることは前述したが、食用専用に改良された品種(ショクヨウヘチマ)もある。それは果実の上から下までは均一な太さで、ややずんぐりとしているのが特徴である。 画像出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:612Cuisine_food_of_Bulacan_02.jpg 著作者:Judgefloro(CC BY-SA 0.0) いわゆる「ショクヨウヘチマ」。 日本への正式な渡来時期は、諸説あってはっきりしない*1が、江戸時代後期の農業の指南書「成形図説」にはヘチマの調理法が詳細に記されており、遅くともそのころから食材としての利用があったと推測される。 果実が成長するにつれ、、果肉の繊維が発達して網目状になる。この段階になった大きな果実を収穫し、数日水につけて表皮を腐らせ、果皮や種子を取り除き乾燥させて使いやすい大きさに切り分けるか、あるいは切り分けずにそのままたわしにする。へちまたわしは体を洗うだけでなく、食器洗いにも使えることから沖縄では「鍋洗い」が訛って「ナーベラー」と呼ばれる。 果実が完全に熟すると、果実の花落ち部分が外れて、少し果実をゆするとそこから種子が落ちてくる。一種のカタパルト式の種子散布方法である。種子は消し炭のようなつや消しの黒色で、スイカの種を一回り大きくしたような形状である。 秋に実が完熟した頃、地上30~60cmほどの部分で蔓を切ると水分が出てくる。これを「ヘチマ水」や「美人水」と言って利用し、服用した場合は咳止めや利尿作用があり、肌に塗った場合は肌の炎症を抑えるのに効果がある。 糸瓜咲いて 痰の詰まりし 仏かな 子規 痰一斗 糸瓜の水も 間に合はず 子規 をとゝひの へちまの水も 取らざりき 子規 9月19日は、その日に亡くなった明治の俳人・正岡子規(1867~1902)を偲ぶ日とされており、「糸瓜忌」と呼ばれる。これは、上記の子規の辞世の句となった3首のいずれにもヘチマが詠まれていることによる。
画像出典:https://botanic.jp/plants-ta/tokado.htm 学名:Luffa acutangula 果実の形状はヘチマに似るが、一回り小さく、果実の表面にシワと10個の角がある。これが和名の由来で、漢字表記すると十角糸瓜。 若い果実を野菜として食用にするが、この棘は硬くて手に刺さるとなかなか痛く、加熱すると一層とげとげしさが強くなるため、包丁でこそげとるのがよい。我が国には明治期には導入されており、幕末~明治期の絵師・服部雪斎が図を手掛けた植物図譜『植物集説』や、同じく幕末~明治期の植物学者・伊藤圭介が作成し、その孫で同じく植物学者の伊藤篤太郎が整理した図鑑の草稿『植物図説雑纂』に図がみられるのが証拠である。 むりやり身近なものにたとえれば「ナッツに似た」と表現するほどの独特のにおいがあってあまり好まれず、現在は自家栽培かごく稀に農産物直売所などで売られている程度である。 たわしに加工することも出来るが、完熟してしまうと非常に固くなって加工しにくくなるため、少し果皮の色が褪せたくらいから加工するとよい。
学名:Luffa operculata
ヘチマとは異なり、果実の形状は球形で、表面には疎らに短く太いとげがある。この棘は先端が曲がっていることもある。直径は3cmほどで、我が国では種子を抜いてたわし状にしてから漂白したものが「ミニヘチマ」の名称でフラワーアレンジメントの材料として出回る。 果実は食用には適さず、上記のように乾燥させて観賞用にする。熟すと、先端が割れて、微かな衝撃で種子を落とす。 おそらく、ヘチマの原種か原種に最も近い品種改良の前のものであろう。