オタネニンジンとは、わが国で古くから利用されてきた薬草の一種である。現在は朝鮮人参と呼んだ方が通りがよいかもしれない。 写真:筆者撮影(東京都薬用植物園)
草丈は50㎝~60㎝で、茎は1本だけ直立し、茎頂に5出掌状複葉を輪生する。葉は楕円形で鋸歯で縁取られ、先端はとがっている。春に花を咲かせ、花は白みの強い緑色で、散形花序である。花が終わると、夏から秋に楕円形の果実を実らせ、熟すと緑色から鮮やかな赤色に変色する。 人間を思わせるような形をした根には強壮、食欲不振、強心作用があるとされ、「薬草」といえばまずこの植物の名が上がるほど有名である。わが国は当初は朝鮮半島から本種を輸入していたが、そのころは単に「人蔘(ニンジン)」と呼んでいた。江戸時代前期に、三代将軍の徳川家光(八代将軍の徳川吉宗説あり)が試行錯誤を繰り返しつつも下野国日光で栽培に成功し、種子を諸藩の大名に配ったため、敬称で「御種人蔘(おたねにんじん)」と呼んでいた。やがて、食用となる野菜のニンジンが渡来すると、本種との混乱が生じた。当初野菜のニンジンは「セリニンジン」と呼んでいたが、この呼び名は次第にすたれ、ニンジンという呼び名のみが残った。これにより、本種に「朝鮮人蔘」「高麗人参」の名称がつけられるにいたったのである。 前述のように医薬品としてもつかわれる本種の根だが、意外なことに野菜としても食用になるという。種子を蒔いてから一年の若い植物体の根を味噌漬けにするほか、本場韓国では参鶏湯(サムゲタン)の具にするという。