ヤマノイモとは、地下茎をすりおろして食用にする山菜の一種。まれに栽培もされる。 画像出典:東京都薬用植物園にて筆者撮影
わが国特有の品種で、北海道から九州の山地に自生する。このため、「自然薯(じねんじょ)」の名称でも呼ばれる。 茎はつる性で、ほかのものに絡みつく習性があり、秋には黄葉し、冬には枯死する。葉は矢じり型もしくはハート形で先がとがり、普通は互生するが、まれに対生する。 果実は3枚の翼をもち、それぞれの陵が中に種子を1個含んでいて、熟すと壁が剥がれて、中から扁平な種子が出る。この扁平な種子は風によって散布できるように薄い羽状の膜があり、グライダー仕様の構造である。 いわゆる「いも」はひょろ長い棒状の地下茎で、これは専門用語では「坦根体」と呼ばれ、根と茎の性質を併せ持つ、ヤマノイモ科特有のものである。この部分をすりおろして白飯やうどん、そばにかけるほか、お好み焼きなどの「粉もん」に使い、またかまぼこやはんぺんなどの魚肉練り製品のつなぎ(・・・)にする。鹿児島県の郷土菓子の「かるかん」には欠かせない材料の一つでもある。 また、葉腋には球形の「むかご」(植物学上は「球芽」と呼び、無性生殖の手段の一つである)が付き、このむかごを土に植えて苗にしてから植えることもできる。このむかごは食用にもでき、ゆでるとほくほくした食感となり、ごはんと一緒に炊く「むかご飯」は有名。 前述のように自生するが、近年は風味や粘りなどの特性はそのままに、根を短く、かつ太くした栽培品種もある。 平安時代には「芋粥」というのが食されていた。「粥」とあるがいわゆる暖かいジュースのようなもので、本種の根をざく切りにして甘葛(あまづら)(ツタの樹液)で煮詰めたものを言う。「今昔物語集」に腹一杯芋粥を飲みたいという男の話が登場し、芥川龍之介の小説もこれにインスパイアしたものである。 よく似た草にオニドコロがあるが、オニドコロはツルが右巻きで葉をすかしても側脈は見えないが、ヤマノイモはつるは左巻きで葉をすかしてみると側脈が透けて見えるという点で見分けられる。オニドコロのイモはジオスシンという有毒成分を含むので、大量に食すと嘔吐などの症状を引き起こす。