ジャガイモは、古くから栽培されてきた食用植物の一種である。土中で成長してデンプンを溜め込んだ地下茎を食用にする。 画像出典:ウィキメディア・コモンズ(1891年のフランスの植物図譜から)
アンデスの高地が原産である。紀元前500年には栽培が開始されたとされ、当時の土器にジャガイモの形状を模したものが見つかっている。 ヨーロッパには15世紀に、スペイン人が制服先のペルーから祖国に持ち帰ったのが始まりだが、当時は同じナス科のアトローパ・ベラドンナ?に似ているので「悪魔の草」の名で呼ばれ忌み嫌われ、食用としての普及には時間を要したという。 我が国には桃山時代初期にオランダ船によってジャカトラ(現ジャカルタ)を経由して長崎に持ち込まれたが、当初は細々と栽培されるのみであった。香川県の数件の農家で栽培され、栽培の歴史は幕末にまで遡ると言われる「ごうしゅいも」はそうした明治以前の在来のジャガイモである。地下茎が赤色と黄色のものがあり、色合いから源氏の白旗、平氏の赤旗になぞらえて「源平いも」とも呼ばれている。 江戸末期になって蘭学者・高野長英がジャガイモの栽培の容易さや味の良さに目をつけ、ジャガイモと早ソバの栽培方法や利用方法に関する書籍『二品考』を出版している。 明治時代には西洋料理の普及も相まって栽培が日本全土に広まった。現在では肉ジャガ、おでん、カレーライス、シチュー、ポテトサラダ、タラモサラダ、ポテトチップ、あるいはハンバーガーにつくフライドポテトのみならず、とろみをつけるための片栗粉などと、毎日の食卓とは切っても切れない関係にある。それはアンデス高地在住の人々にも同様で、現地の人々は干しジャガイモ「チューニョ」というものを作る。これは、ジャガイモを乾燥させたのち、夜間に屋外で凍らせる。そうして、翌日の朝から天日干ししてからからに乾かし、またその日の夜に凍らせる。こうした工程を繰り返すうちに、ジャガイモは凍結と乾燥を繰り返して黒っぽく小さくなる。これを水で戻してスープの具材やゆでて塩をつけて食べるのである。わが国にも東北地方の一部に「しばれ芋」と負うのが残っているが、これも似たような工程をへて作られる。なお、現地には良質なでんぷん質を含んでいながらも有毒物質が生半可な調理法では抜けない個体もある。そうした個体を食すためにも、この工程は欠かせないのである。 このようにジャガイモは我々の生活に欠かせない植物の一種でもあるのだが、同時に有毒植物の一種でもある。 まず、日に当たって緑色になった部分や茎に毒素・ソラニンが含まれる。これはナス科ナス属の植物の大半に含まれ、トマトやナスの葉にも含まれる。安全に食べるには緑化した部分や芽を掻き取ってからよく加熱する。また、ビー玉大の芋もソラニンを持っているため、食用にしてはいけない。
ジャガイモには、極稀にトマトのような果実が実る(画像左)。当初は緑色だが、熟すと黒っぽくなる。当然、その果実から種子を取り出して撒き、芋を収穫することはできなくはないが、芋が3個できればいい方である。これでは効率が悪いので、より多くの収穫が望める種芋からの栽培が行われている。筆者もかつてジャガイモの果実をもらった際に実験してみたが、ピンポン玉より少し小さいくらいのイモが2個できただけであった。茹でて塩をつけて食ってみたら、えぐ味などは一切ないものの、やたらと粉っぽかった。 ただし、品種開発の際にはあえて種子から栽培する。
ジャガイモは、「馬鈴薯(ばれいしょ)」と呼ばれることもある。片栗粉を「ばれいしょでんぷん」と呼ぶこともあるし、明治期の小説家・国木田独歩の作品にも『牛肉と馬鈴薯』というものがある。 「馬鈴薯」という名称はジャガイモのもう一つの名称として知られているが、これを否定する説もある。この「馬鈴薯≠ジャガイモ」説を唱えた代表的な人物は、明治期~昭和期の植物学者・牧野富太郎である。 牧野は「この名称の誤謬の原因を江戸後期の本草学者・小野蘭山の研究によるものである」と看破し、蘭山が「馬鈴薯=ジャガイモ」説を唱えた根拠は地下茎の特徴であると説明したが、蘭山は「茎が蔓性になる」「芋の風味は甘いが遠くでやや苦みが感じられる」という、真正のジャガイモではまずありえないような解説がなされているにもかかわらず、これを無視しているとして、断固として「馬鈴薯≠ジャガイモ」説を唱えた。そうして、球形の芋を持つつる性の植物、すなわち「馬鈴薯」とされた植物はマメ科の植物で、健康食品として知られるアピオスに近縁な「ホドイモ」という植物であると推定した。このホドイモは塊茎が食用になり、かつては救荒植物としても注目されていた。 なお、清代の植物学者・呉其濬(ごきしゅん)による図鑑『植物名実図考』には「陽芋(ヤンユ―)」という名称でジャガイモが紹介されており、ジャガイモの漢字表記並びに中国での呼び名にはほかに「土豆(トゥドォ)」「洋芋(「陽芋」と読み方は同じ)「薯仔(シューザイ)」などがある。