ネギは、わが国で栽培される野菜の一種である。 画像出典:筆者撮影(赤塚植物園) 科名:ヒガンバナ科ネギ属 学名:Allium fistulosum 原産地:中国西部 生態:多年草 中国原産の一年草で、原産地では紀元前から栽培がなされてきた。わが国最古の記録は『日本書紀』に登場する「岐(き)」という名称で、そこからネギの九州地方の呼び名である「ひともじ」という呼称がある。欧米では、本種を「Welsh onion」の名称で呼び煮込み料理に用いるが、タマネギの利用量の方が多く、利用量はアジア圏に遠く及ばない。 草丈は30㎝~40㎝程度。ネギの葉は先端のとがる円柱状で、葉鞘と呼ばれ、これが幾重にも重なり、いわゆる「白根」を形成する。ネギの葉は、本来葉の裏側にあたる部分が表面に出ることになるという、変わった形状をしている。なお、先程「白根」と呼称した部分は本来の根ではなく、葉鞘が重なり合ってでき、土中にもぐることで白くなった部分である。いわゆる、「茎」にあたる部分は先端のごくわずかな部分で、そこからひげ根を出しているのである。 初夏に花を咲かせ、しばしば「葱坊主」と呼称される。花を咲かせてから1か月ほどでレンズ型の黒い種子をつける。 東北地方や関東地方では、「白根」をおもに食用とする「根深ネギ」*1が栽培され、関西地方以西では、地表に出た葉鞘を食用にする「葉ネギ」が栽培される。中部地方では中間的な形質をもつ福井の伝統野菜である越津ネギが多く栽培されている。「万能ネギ」と呼ばれるのは、「葉ネギ」の系統に属し、京都の伝統野菜で、福岡県でも栽培される九条ネギである。 葉の緑色の部分はうどんやそば、冷奴などの薬味や肉料理の下処理の臭み抜きとして使い、白い部分は汁物や炒め物、煮物や焼き物など、加熱して食すことが多い。もちろん、中華そばの薬味にも用いられる。
画像出典:(左)自宅近くの八百屋にて撮影/(右)自宅近くの畑にて撮影 群馬県甘楽郡下仁田町でふるくから栽培されてきた品種である。非分蘖性で葉鞘部は15㎝から25㎝程となり、全体的に太いことから、古くは「イッポンネギ」「オオネギ」と呼ばれた。生食には葉の辛味が強すぎて適さないが、加熱すると甘みが出るので、煮込みや鍋料理にする。
画像出典:(左)板橋区立赤塚植物園にて筆者撮影。「九条太」のタイプ。/(右)筑波実験植物園にて筆者撮影。「九条細」のタイプである 京都府で古くから栽培されてきた伝統野菜で、「九条太」と「九条細」の二種がある。前者は分けつは5~6本で、成長すると葉色が濃い緑色になるため「黒種」という通称で知られた。こちらは耐暑性は弱いが、耐寒性に優れるために冬場に栽培され、流通してきた。後者は分けつ数が多く、5~10本となる。このタイプは葉色が前者と比較して薄くなるため「浅黄ねぎ」とも呼ばれてきた。この「浅黄」は色名の「浅葱色」の語源である。こちらは耐暑性があるため、夏場にも栽培される。現在「九条ネギ」の名称で流通するのはこの「九条細」のタイプである。
画像出典:筆者の蔵書「原色図説植物大辞典」(1938年)より抜粋。 ネギの古い品種で、普通のネギと同じく、夏に筒状の葉を伸ばし、花(ネギ坊主)の代わりにその頂点にムカゴのような球根状の部分から小さな葉を伸ばす。繁殖の際には、この葉の生えた球根状の部分を土に植える。その独特の生態から、サンガイネギ(三階葱)とも呼ばれる。 江戸時代から現在の富山県・新潟県に該当する地域で栽培されてきた品種である。葉ネギの系統にあたる品種で、うどんやそばなどの薬味に向く。
画像出典:筆者の蔵書「原色図説植物大辞典」(1938年)より抜粋。 ネギの一品種で、根元が太く、しばしば分けつする。現在の埼玉県さいたま市岩槻区で古くから栽培されてきた品種である。葉が長く、軟白部分が短いのが特徴で、あまり保存がきかないので市場に出回ることは少ない。食味が良いので、家庭菜園で栽培される品種である。