附子とは、狂言の演目の一つである。
ある日、主人が急用ででかけることになったため、召し使いの太郎冠者と次郎冠者に留守を命じた。その際に壺を見せて「この壺には附子という毒が入っている。壺の周りの空気を嗅いだだけで死んでしまう代物だ。絶対に壺を開けるんじゃないぞ!」と厳命した。 主人が出かけたあと、太郎冠者と次郎冠者は壺の中身の附子がどんなものかがどうしても気になってしまい、2人は扇を使って空気をかわしながらその壺に近づき、とうとう壺の蓋を開けた。すると、中から大変甘い匂いがする。実は主人の言葉は真っ赤な嘘で、甘い匂いの正体は黒砂糖であった。2人はあっという間に壺の中の砂糖を食べてしまった。 さて、砂糖を食べた2人は、砂糖を食べた言い訳を必死にひねり出そうとした。手始めに、まず主人の大切にしていた掛け軸をビリビリに破いた。次に、これまた主人の大切にしていた茶碗を粉々に割り砕いた。そうして、2人で抱き合っておいおい泣いた。 用事を済ませた主人が帰ってくると、そこにはカオスな光景が広がっていた。空っぽの壺。ビリビリに破かれた掛け軸や原型をとどめていない茶碗。抱き合って泣く召し使い2人。 「おい、これは一体……どういうことなんだ…説明しろ!」 太郎冠者が説明する。 「お許しください、旦那様!実は、私たちは眠くならないように相撲を取っていたところ、勢い余ってご主人様の大切になさっていた掛け軸や茶碗を壊してしまい、死んでお詫びをしようと思って、附子を嘗めたのですが、この通り死ねずにいるのです」 どうすることもできずオロオロする主人。その主人の横で、2人は、「附子を何口食っても死なない。死なないことはめでたいなあ」という内容の歌を歌い、扇子で主人の頭をぺちぺちと叩く。激怒した主人が2人を追い回すところで、物語は幕を閉じる。