人間万事塞翁が馬とは、故事成語である。
一見不幸に見える事柄が実際は幸運への糸口となったり、その逆もあり得る。幸か不幸かは一見すると判断しにくいものであるから、不運にさいなまれてもあまり落ち込む必要はないし、幸運が舞い込んでも喜びすぎてはいけない、という教えである。
この故事は、古代中国の『淮南子』という書物の「人間訓」という章に収録されている。 昔、中国の北方の国境の塞(さい)(とりで)近くの村に老人(翁)が住んでいた。ある日、この老人の飼っていた馬が逃げてしまった。村人は口々に飼い主の老人を慰めたが、老人は顔に微笑を浮かべ「これは、幸運の兆しかもしれませんよ」と言った。 その老人の予言通り、かつて逃げ出していた馬は、一頭の立派な馬を連れて戻ってきた。村人は「素晴らしい馬を手に入れられましたな」と口々に喜んだが、老人は顔をしかめて「これが不幸の兆しかもしれません」と言うのであった。 かくして、その老人には息子がいたのだが、息子がその新しい馬から落ちて、足の骨を折ってしまった。村人は老人の家にお見舞いに訪れ、老人は「いやいや、これが幸運の兆しかもしれませんよ」と笑って言った。 やがて、塞の近くで戦争が勃発し、多くの若者が徴兵されて戦死したのだが、息子は足を負傷していたお陰で兵役につくことなく、命を永らえたのであった。